今日は日曜日です。
毎週日曜日は
常々思っていることを
そのまま書くことにしています。
今日のテーマは
「DX」という言葉についてです。
私の会社での担当部署の名前にも
入れていますし
社外への発信でもよく使う言葉です。
ただ最近
どうも多くの方が使っている「DX」の意味と
私が使っている「DX」の意味が
違うような気がしてなりません。
今日はそのことを書いてみます。
目次
1. DXを最初に定義したのは誰か
2. 日本で広まった「DX」との距離
3. ストルターマンはなぜ定義を更新したのか
4. 2022年版の三層構造
5. 私がDXという言葉を使うとき
DX(デジタルトランスフォーメーション)という概念を
最初に提唱したのは
スウェーデンのウメオ大学教授
エリック・ストルターマン(Erik Stolterman)です。
2004年、共著論文
「Information Technology and the Good Life」の中で
彼はこう定義しました。
「デジタル技術が人間の生活の
あらゆる側面に深く浸透し
社会や生活の質そのものを
変革すること」
注目してほしいのは
この定義に「業務効率化」も
「コスト削減」も「システム導入」も
出てこないことです。
問いの中心は
テクノロジーではなく
「人間の生活の質」でした。
日本でDXが注目されたのは
経済産業省が2018年に
「DXレポート」を発表してからです。
そこから
「DX=ITシステムの刷新」
「DX=デジタル化推進」という解釈が
急速に広まりました。
ストルターマンの問いと比べると
ずれが見えてきます。
| ストルターマンの原義 | 日本で広まった解釈 | |
|---|---|---|
| 目的 | 人間・社会の質の変容 | 業務効率化・コスト削減 |
| 問いの主体 | 生活者・社会 | 企業・経営者 |
| 核心の問い | 良い生活とは何か | 何を導入するか |
同じ「DX」という言葉を使っていても
出発点がここまでズレている。
「何を入れるか」から考え始めると
ツールが目的になります。
「何のために変わるのか」から考え始めると
人間が中心に戻ってきます。
2022年
ストルターマンは自身のDXの定義を
改めて発表しました。
2004年の原義から
思想の核心は変わっていません。
変わったのは
定義の「使われ方」への応答です。
独立行政法人経済産業研究所(RIETI)が
発表したコラムには
こう記されています。
「特に日本においては
その複雑なコンセプトは要約され
様々に解釈されています」
ストルターマンが2004年に語った問いは
社会全体に向けた哲学的な問いでした。
でも実務の世界でそれが
「企業のIT化」「業務効率化」という
文脈に収められていくのを見て
彼は定義を三層に整理し直しました。
(1)社会のDX
原文(英語):
“Digital transformation is not only about technology development; it affects all aspects of human society in a complex and rapidly changing world. DX can make it possible for people to lead happy lives and create a prosperous society with sustainable and culturally rich living.”
(日本語訳・RIETI):
「DXはテクノロジー開発の分野のみに限定して考えるのではなく複雑で激しく変化する人間社会に広く深くあらゆる分野に影響を与えるものである。DXを活用することによって人々は幸せな人生を送り持続可能な文化的な生活を送る豊かな社会を作ることができる。」
(2)公共のDX
「公共サービス部門はDXを推進することにより安心安全で暮らしやすく持続可能な環境を提供することが可能である。そしてそれによりその地域に住む人々は幸福になり裕福になり豊かな生活を送ることができる。この公共部門のDXはその国や地域のトップマネジメントによってリードされる。」
(3)民間のDX
「各企業のビジネスビジョンと目標を基に、民間のDXは製品やサービスを作りそれを消費者に届ける領域に活力を与えることが可能である。民間企業がDXを推進する過程で経営戦略、組織行動、組織構造、組織文化、社員教育そして企業統治など全ての側面における企業デザインの再構築を行う必要がありトップマネジメントの指示の下全社員の参加が求められる。」
(出典:RIETI 特別コラム
「人間社会を豊かにする
デジタルトランスフォーメーション」2022年)
この三層構造が示していることは何か。
社会・公共・民間という層を分けることで
DXを語る主体と目的を
明確にしたのです。
日本で広まった
「企業のDX=システム導入・効率化」という解釈は
三層のうち最も狭い
「民間のDX」の一部にすぎません。
しかもその民間のDXでさえ
ストルターマンは
「企業デザインの再構築」と呼んでいます。
ツールを入れることではなく
組織そのものを変えることだと
言っているのです。
2004年から2022年にかけて
彼が深耕したのは一点です。
「人間の生活の質」という問いを
社会・公共・民間の
それぞれの文脈で
具体的に問い直せるようにしたこと。
哲学は変わっていない。
ただ、誤解が広まった世界に向けて
もう一度丁寧に言い直したのです。
私はDX推進の仕事に携わっています。
その立場から正直に言うと
「DX=ツール導入」という解釈のまま進めると
現場に使われないシステムが
生まれ続けます。
私がDXという言葉を使うとき
ストルターマンの原義に近い意味で
使っています。
「この仕組みを入れることで
ここで働く人の仕事と生活の質は
良くなるか」
これが
私の中でDXを判断するときの問いです。
言葉の定義にこだわるのは
言葉が思考の枠組みを決めるからです。
「DX=何かを入れること」と思っている人と
「DX=人の生活の質を変えること」と
思っている人では
同じ会議室にいても
まったく別の議論をしています。
あなたの会社のDXは
誰の何を変えるためのものですか。
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参考文献
Stolterman, E., & Fors, A. C. (2004).
“Information Technology and the Good Life.”
IFIP International Federation for Information Processing,
vol 143. Springer.
→ 論文PDFはこちら(IFIP Working Group 8.2)
RIETI 特別コラム
「人間社会を豊かにする
デジタルトランスフォーメーション(DX)」(2022年12月)
→ https://www.rieti.go.jp/jp/columns/s23_0009.html
| 現場と経営をつなぐDX部長 村上 郁 (むらかみ かおる) |
|
| 支援内容 |
DX推進・IT活用の相談・伴走支援 組織づくり・人材育成の仕組み化 |
|---|---|
| 活動拠点 | 奈良県 |
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