「痛いのはイヤ。だから頑張る」
戸塚ヨットスクールの創設者・戸塚宏氏が、
いまもそう語っているというニュースを目にした。
体罰による死者を出し、有罪判決を受けてなお、
その考えは変わっていないらしい。
最初は「信じられない」と思った。
でも少し考えて、気づいた。
あ、これ、中小企業の現場でも
似たことが起きてるな、と。
「怒鳴って育てる」
「見て覚えろ」
「失敗したら即、詰める」
さすがに体罰はないにしても、
このくらいのことは今でも珍しくない。
そして、その指導をしている人は
たいてい悪意がない。
むしろ「これで自分は育ったから」
という確信がある。
それが、厄介なのだ。
私は1972年生まれ。バリバリの昭和世代だ。
新人のころは「わからないことは聞くな、見て覚えろ」
という空気の中で仕事を覚えた。
それで育ったのは事実だし、
今の自分の土台になっている部分もある。
でも同時に
聞けなくて遠回りした時間、
怒鳴られて萎縮した記憶、
「向いてないのかも」と思った夜も
ちゃんと覚えている。
製造業に入ってからこの10年ほどで
目にした光景がある。
新入りの若手がネジの回し方ひとつ
教えてもらえないまま、
見様見真似で作業をしている。
そこに飛んでくるのが
「こんなんもわからんのか」という言葉だ。
工業高校で習ってきて当然、
とでも思っているのだろう。
でも普通科を卒業してきたその社員は
ネジの回し方を教えてもらったことは
一度もない。
悪意はないと思う。
ただ、自分が誰かに教わった記憶がないから
わからないだけなのだ。
あの経験があったから強くなった
——そう言えなくもない。
でもそれは
「あの方法が正しかった」という意味じゃない。
もっといい育て方があれば
もっと早くもっと多くの人が伸びられた。
私はそう思っている。
若手が辞める理由として
よく「給料」や「休日」が挙げられる。
もちろんそれもある。
でも現場を見ていると、
もっと根っこに「心理的安全性の欠如」がある。
要は、
「失敗したら怒鳴られる」
「わからないと言ったら馬鹿にされる」
「何を聞けばいいかもわからない」
という状態が続くと、人は黙って辞める。
声に出して辞めるのではなく、
静かに心が折れていく。
これをTOC(制約理論)的に見ると、
「情報の流れが止まっている」状態だ。
組織の中で「聞けない」「言えない」が積み重なると、
問題が見えなくなる。
問題が見えなければ、改善もできない。
若手の離職は、その末端に現れる症状にすぎない。
では、どうするか。
私が現場で有効だと感じているのは
「怒鳴らなくてもいい仕組みを作る」ことだ。
例えばチャットツールを使えば
「すぐ怒る先輩」に直接聞かなくてもいい。
動画マニュアルがあれば
「見て覚えろ」という状況が減る。
ITは人間関係の摩擦を減らす緩衝材になる。
ここを誤解されることが多いのだが、
私がDXを推進するのは「効率化のため」ではない。
現場と経営、昭和と令和、
その「あいだ」に溜まっている
不要な摩擦を取り除くため、だ。

そして摩擦が減った先にこそ、
ほめ育が機能する土壌ができる。
「怒鳴られないかも」と思えて初めて
人は自分から動こうとする。
心理的安全性というのは
掛け声だけで生まれるものじゃない。
仕組みで守られて、初めて根づく。
叱って育てた世代が、褒めて育てる側になれるか。
これは「考え方を変えろ」という話ではなく、
「仕組みを変えれば、自然にそうなれる」という話だ。
あなたの会社の若手は今、
何を「聞けない」でいるだろうか。
| 現場と経営をつなぐDX部長 村上 郁 (むらかみ かおる) |
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| 支援内容 |
DX推進・IT活用の相談・伴走支援 組織づくり・人材育成の仕組み化 |
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| 活動拠点 | 奈良県 |
| 営業時間 | 平日9時~18時 |
| 定休日 | 土日祝 |